基礎・全般

3 磁石を前に抱えて歩く

乾いた荒野を旅の男が歩いていました。
お腹の辺りに大きなU字型の磁石を抱えていますが、透明なので本人は気付いていません。
NとSの先端を前に向け、その方向へ導かれるように歩いています。

おや、先端が下がってきたようです。
耳を澄ませると、ぶつぶつ何か言っているのが聞こえます。
でも、しかし、どうせ俺なんか、あいつのせいで、ツイてない、きつい、難しい、ムリ……。
否定語、愚痴、不平不満のオンパレードです。

先端がどんどん下がっていきます。
ついに地面から何か黒いものを吸い上げ始めました。
砂鉄でしょうか。いや、もっと悪いものです。
不運とか、不健康、不足、不仲、ありとあらゆる不幸の素が先端に吸い寄せられています。

さらに重くなったようです。男は前屈みで歩くようになりました。
磁石の先端が地面に近づきます。もうすぐ着いてしまうというときに、遠くに黒い点が見えました。
目を凝らすと木のようです。木陰も見えます。

近づくと木陰には先客がいました。
白いフードを頭から被った老婆でした。
「水を少し分けてくれまいか」。
男は迷いましたが、水筒のキャップ一杯分だけ分けてあげました。残りはほとんどありません。

老婆は喜び、両手で慈しむように飲みました。
「この荒野はまだ続きますか?」と男は聞きました。
「お前さん次第だよ。心がけ次第で長くもなれば、短くもなる」。老婆は男の全身を一瞥します。「今のままじゃ、延々と続くだろうねぇ」。

男は苦笑します。「心がけで街を引き寄せられるんですか」。
「もちろん。お前さんは親切だから教えてあげよう。その前に五分間だけ横になりなさい。そして、あっさりと街に着いて美味いものを飲み食いするのを想像するんだ」。

男は素直に従い、鞄を枕に横たわりました。楽しい想像でニヤニヤしているうちに寝入りました。
老婆は透明な磁石の先端に付いた不幸の素を全て取り除くと、木と一緒に消えました。

男は少しして太陽の眩しさで目覚めました。木も老婆もいなくなり、白い小さな花だけがあります。

信じがたくて呆然としましたが、とにかく歩き始めました。すぐに足取りと心が軽くなっていることに気づきます。

しばらく行くと蜃気楼に浮かぶ街が見えました。やがてそれは本物の大きな街になりました。

男はそこで商売が当たり、腰を据えようかと思い始めた頃、ふと老婆にお礼が言いたくなり、出会った場所に行ってみました。

荒野の中で白い花が風に揺れている横に小さな墓標がありました。
『不平不満のネガティブな旅人、ここに眠る』。
男は自分の体を触り、足を確認して、俺って死んだんだと苦笑します。
真顔になり「確かにそうだな。変われば変わるもんだな」と呟きました。

白い花の周りにたっぷりと水をかけてあげて、心からお礼を述べました。

(おしまい)

 

 



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